いつも安子は、間違っていない。
「久々に安子と話したかっただけよ。広ちゃんにも会いたかったし。ま、確かに2人のこともあるけどね」
安子は、そうでしょ、そうでもなきゃなかなか来てくれないじゃないの、少し不満そうにしてみせたが、それにも大人の余裕がある。
「これ、オーガニックの紅茶でね、香りはあまりないんだけど、苦みと酸味のバランスが絶妙なの」
普段は聞き逃す私だが、今は俄然興味がある。
裕也は言っていた。本当に混じりけのない、良い食材を選べるようになると、ダイエットは成功だと。
俄然興味を持った私は、安子に、食材はどこで買うのか、オススメのお店など矢継ぎ早に質問した。
「やっと奈美と共通の趣味を持てた感じ」
「確かに、安子の丁寧な生活は羨ましかったけど、自分にはできないって遠ざけていたかも」
「今度はオーガニックレストラン一緒に行こうよ」
私たちはいつになく盛り上がった。安子とこんな風に話せたのは初めてかもしれない。いつも素敵な笑顔を見せてくれているけど、本音をさらすのが怖かったのだ。
いつだって安子は、正しくて素敵で。私も由加利も紗江も、どこか偏っているから。
「それで、由加利と紗江は?」
「由加利はね、最近非営利法人を創ったのよ。カンボジアに学校を建てるんだって。流石由加利よね。でね、私もほだされて、その理事になっちゃったりして」
「それから、紗江は、劇団辞めたの」
(この小説は、毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。
結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。
森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。
近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。
遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。
伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。