【朝の小説:シンデレラの朝ごはん】2章「欲望の先に」Vol.15 置いてきぼりの感情

 

vol15

「どの気持ちも分かるって思うじゃない。その子の母を思う気持ちも純粋な夢も、こどもが自立する時の親の感情も、苦しみを乗り越えて夢が変わっていくことも。

でも随分遠い話のような気がした。私も経験したはずなのに。どこかに感情を置いてきてしまっていて。でも置いておかないと今の生活はできないから。

それで、私も小学校を建てようって。変な話だけど、忘れてしまったものを取り戻すために、すがっているのかもしれない」

由加利がどんな仕事をして、どんな環境で戦ってきたのか、私は何も知らなかったのかもしれない。

人様が思う成功のあとに求めるのは、その先に待っているのは、お金でもなく、恋愛でもなく、「感情を取り戻すこと」なのかな。

私が経験し得ない由加利の小さな闇を見たような気がして、今の私には、その扉はまだ開くことができないと思った。

「ほら、紗江は、まだ夢見る少女しょ?安子は、その活動の本質は何?って言われそうで正直面倒。奈美、この通り!まずやってみたいの」

まんまと由加利の術中にはめられて、私は印鑑を差し出した。

「印鑑証明と住民票は流石に今日じゃ無理。取得したら送るから」

こうして人を巻き込める力が、由加利には備わっている。

「スッキリしたら、お腹すいた!肉食べよう肉!」

と言う由加利は、超スレンダー。

「ねえ、そんな肉食べて、なんで太らないのよ?」

「え?肉食べてるから、太らないのよ」

 

(この小説は、毎朝5時更新です。続きはまた明日!)

 

<< 前回(Vol.14)を読む

 
次回(Vol.16)を読む >>

 
記事一覧を見る >>

 

物語の登場人物

佐藤奈美(30)特許取得を専門とする弁理士事務所に勤める事務員。

結城紗江(30)中堅劇団の舞台女優。奈美と大学サークルの同期。

森野由加利(30)投資銀行に勤めるキャリアウーマン。奈美と大学サークルの同期。

近藤安子(30)専業主婦。一児の母。奈美と大学サークルの同期。

遠野裕也(30)紗江の大学時代の恋人。

伊藤慶太(34)奈美の行きつけの美容室のスタイリスト。

 

この記事を書いた人
Nice to meet you!

朝の小説シリーズ

毎朝読みたい小説シリーズ「やっぱり朝は、二度寝が好き。(完)」「シンデレラの朝ごはん(完)」
Written by

石垣モンブラン

幼少期から創作好きで、3歳児で替え歌発表(笑)、小学時代に学習発表会の脚本、絵本を制作、中学から新体操やダンスの振付をはじめる。現在は、小中学生のミュージカル劇団「リトル・ミュージカル」主宰。台詞をこどもたち全員で創るという他にはないミュージカルの脚本原案、作詞作曲、振付を担当。だけど大人の恋愛模様が大好き。ライトノベルや映像脚本も執筆し続ける。

連載記事一覧

今日の朝の人気ランキング