「や、やっばーい」
床を両手で押して、右後方を向いても時計がない。スマホを見ると、2時を指していた。
「よかったぁ・・・」
一連の動作を見て、大笑いしている藤井君。
「てっきり朝が得意なのかと思ってたけど、苦手なんだな、さては」
「そういう運動神経の良さはいらないんだけど」
すっかり、藤井君に悪態つくようになってしまった。
「ごめんね。タクシーで帰る。ジントニック、ご馳走さまでした。ありがとう」
「待って。さっき言ってたことって本当?」
「なんのこと?」
「高校の時、僕のことが好きだったって」
「そのことか、ごめんね、酔っぱらってて。余計なコト言っちゃって。10年前のこと。
藤井君はモテてたし、気付いてなかったよね。憧れの存在でした。青春をありがとう」
まだ酔いが完全に抜けてない私は、早口で台詞を棒読みするかのように言葉を吐き捨てて、礼をして起き上がると、藤井君にすっぽり包まれていた。
「藤井君、冗談やめてよ」
また、いつの間にか頬に涙がつたった。
(この小説は、毎日更新です。続きはまた明日!)
物語の登場人物
立川萌乃(もえの) 28歳
静岡出身。銀行の一般職。趣味で、フラワーアレンジメントをならう。早起きできる朝美人に憧れている。
新城雪乃(ゆきの) 28歳
萌乃と同じ高校時代からの友人。なんでも出来る格好いい人物として萌乃からは頼りにされている。
藤井倫太郎(りんたろう)28歳
萌乃、雪乃と同じ高校のサッカー部出身で東京の大学へ進み、留学。外資系投資銀行につとめるいわゆるエリート。
木村ことみ 28歳
萌乃の同期で、同じ支店にずっと勤めている。常識人であり現実主義者。
柳原誠士(せいじ)28歳
萌乃とことみの同期入社である、総合職の銀行マン。
近藤裕太(ゆうた)24歳
萌乃がフラワーアレンジメントの教室の隣にあるパーソナルトレーニングスタジオのトレーナー。