プレゼンター/山口光國(理学療法士)
取材/大庭典子(ライター)
動きの悪い肩甲骨が、太りやすい体質に!?
背中の開いた服や水着を着る機会が増えるこれからの季節、後ろ姿のきれいな女性をつい目で追ってしまいます。背中は自分では見えない場所だけに、日々のケアも抜けがちですですが、人によく見られているパーツでもあります。
特にほどよく出た肩甲骨は後ろ姿を美しく映してくれますが、見た目だけでなく、肩甲骨の働きもまた、女性の美しさと密接に関わっているようです。その役割や美を生むメカニズムなど、美しい背中になるために知っておきたいことを理学療法士の山口光國先生にお伺いしました。
「手首やひじなどは、炎症などを起こさなければ70歳を過ぎても若いときと同じように動かせますが、肩甲骨を若いころと同じ角度ややわらかさで動かすのはとても難しいのです。なぜなら、肩甲骨はからだの中でもっとも老化が早く現れる部位で、だれでも25歳くらいから衰え始めてしまうからです。
しかも、肩甲骨はふだん使っている意識があまりないので、なかなか衰えを実感できません。若いころは、肩甲骨の疲れなんか1日寝れば即回復できるのですが、25歳を過ぎたあたりから回復が遅くなり、放置しておけば無意識に疲れをため込んで、固く動きの悪い肩甲骨になってしまいます。
肩甲骨の動きが悪くなると言うことは、肩甲骨まわりの筋肉が固いということです。肩甲骨は、からだ全体の動きに関わっているので、肩甲骨が固くなれば、からだ全体の動きも鈍くなり、代謝もダウン。逆に、肩甲骨がきれいに動けば、代謝もアップし、からだ全体の動きもしなやかに。今から意識して動かしておけば、肩甲骨のエイジングを予防できるでしょう。
やわらかく、動きのいい肩甲骨をつくるため、1日数回でもいいので、両腕を後ろに組み、腕をまわしをするエクササイズを行いましょう。パソコン作業などで前かがみになりがちな姿勢を正し、肩甲骨を動かしてくれます。
肩甲骨は、腕をスムーズに動かしたりという役割のほかに、ほかの部位と逆の動きをすることでからだ全体のバランスを取っています。たとえば、前に転びそうなとき、からだにブレーキをかけて元の位置に戻ってこようとする作用も肩甲骨の働きによるもの。肩甲骨が固くなると戻る力がなく、そのまま前のめりに倒れてしまったり、突っ込んでしまったり、首、腕、腹など全部が同時に動いてしまう現象が。このように動作にも変化が出てきます。
美しい”ねじれ”のしぐさの鍵は肩甲骨!
美しい動作というのは、腕は腕、首は首、おなかはおなか、というように、全部がバラバラに動かせることなのです。“動くところは動く、止めるところは止める”というメリハリのある動きができること。この動きのカギとなるのが肩甲骨です。
後ろの人に呼ばれて振り向くときを想定してみましょう。
A:おなかは前を向いたまま止めて、首だけ動かして振り向く
B:首もおなかも胸も全部が後方に動き、からだ全体で振り向く
AとBでは、”しぐさ年齢”は全然違います。圧倒的にAの方が若々しく、美しい動き。Bのように全部一緒に動かすと、動作が直線的でどうしても”おばちゃん” の動きに見えてしまいます。ある箇所は止めておいて、いつでもその位置に”戻ってこられる”曲線的な動作、これが美しいのです。そのためには、肩甲骨をきちんと動かせることが大事です。
江戸時代に描かれた『見返り美人図』を思い浮かべてください。体は前を向いたまま首だけ傾けて振り向く…女性らしい優雅な動きが伝わってくる傑作ですが、肩甲骨が上手に使える女性というのは、まさにあの状態のことです(笑)。
同じ体重の太った方でも”ふくよか”と思われる方と”おデブさん”と思われてしまう人、この違いも肩甲骨の動かし方ひとつ。肩甲骨が上手に使えて動作が曲線的ならふくよか。肩甲骨が動かせず、動作が直線的ならおデブさん、という印象になってしまうのです」
そうなのですか…。肩甲骨の働きがエレガントさの要だったとは。きれいな肩甲骨を目指して、まずは、腕まわしのエクササイズに励みたいですね。
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山口光國(セラ・ラボ代表/理学療法士)
日本サッカーリーグの日立製作所(現 柏レイソルズ)にFWとして入団。故障から21歳で引退し、現職へ転身。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院を経て、’05年より横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)にフィジカルコーチとして就任。現在はさまざまなジャンルのアスリートをサポートするほか、全国各地で講演、セミナー活動も行う。