(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第7週は「ピンチはチャンス?!」。
第49話:働くのはお金のため?それとも…
(第7週:ピンチはチャンス?!)
牧田さんは、伝票をつかんで立ち上がった。
頭がボーっとする。
次に夢野市の広報でネタにしようとしていた農家さんに連絡をしてアポをとらなければ。そう思うけれど、体が動かない。
やりたい仕事って何だろう。
自分の名前で、思いを文字にして発信したいと考えてきた。でも、このままじゃ生活が安定しない。
「じゃあ」と言って、つかつかと歩き去る牧田さんの後姿を見送る。なんだか気分が高揚して、頬が熱くなって来た。
手元のカップには、手付かずのままのコーヒーが冷めていた。さっきハルコさんのところでも飲んできたから、今日の2杯目だった。
普段なら何杯でも飲めるコーヒー好きのわたしが、なぜか飲みたいと思えない。
横にあったグラスの水に手を伸ばしてのどの渇きを潤す。うん、夢野の水はやっぱりおいしい。
もう一度、コーヒーカップを見た。
この一杯で一食500円のカフェあしたの朝ごはんが2回ほど食べられるんだ。
お金って不思議だなあ。
別世界にいるようなラグジュアリー気分で味わうホテルのコーヒー一杯と、ハルコさんが地元食材で作る地道な朝ごはん2日分がほとんど同じ値段。
いまのわたし、どっちを選ぶべき?
ううん、どちらを選びたい?
ホテルを出ると、どんよりと曇った空が湿り気を帯びて、今にもぽつぽつと雨が降り出しそうだった。自転車にまたがり、一目散に自宅を目指す。
泣きたくなってくる。曇り空は雨が降りそうだ。
もしかしたら、大きいチャンスなのかもしれない。でも、胸が躍らない。どうして?自分に問いかけてみる。
わたし、東京に行くことがいやなのかな。夢野にずっといたい?東京に行ったら、ハルコさんの朝ごはんも食べられないよね。
それに、そもそも、仮面をかぶって誰かのゴーストライターをしたいから会社を辞めたんだっけ?
ぐるぐると頭の中を洗濯機みたいに思いが駆け巡る。う~ん、パンクしそうだ。
一晩悩んで翌朝になっても答えは出なかった。
こういうとき、誰かが背中を押してくれればなあ。ハルコさんに話を聞いてもらおうかな。なんて言ってくれるだろう。
すっきりしないのは空模様も同じだった。
昨夜から降りしきる雨のなか、傘を差してカフェあしたを目指す。地面に跳ね返る雨水が、パンツのすそをぬらす。
けれど、遠目に見えてきた店は、電気が消えて薄暗く、人の気配もなかった。店の前まで行ってみると、表札は「CLOSED」のまま。
「本日、臨時休業します。申し訳ありません」
達筆で書かれた紙が貼り出されている。
カフェあしたが休みになることなんて、考えたこともなかった。いつも、当たり前に通ってきたから。
おまけにわたしは悩みの淵に立っている。こんなときに、どうして休みなの。
寂しさと切なさで、スニーカーに水が滲みた不快も忘れてしまうほどだった。
(明日の朝より第8週がはじまります。どうぞお楽しみに!)
今日のおすすめレシピ「甘さがしみる!はちみつトースト」
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迷う莉子の気持ち…「わかる、わかるよ!」と感じる方、きっと多いですよね。よく言われるけれど「人生は選択の連続」、ほんとうにそう思います。ここまで大きなことじゃなくても、今日何を着るか、朝ごはんに何を食べるか…ほんと、選択ばっかり!
今日は、朝ごはん何しようかな、とおもったときに、思いついたらちょっと嬉しくなりそうなメニュー、「はちみつトースト」をご紹介しますね♪もちろん、明日からの莉子の選択も、お楽しみに!莉子、がんばれ!
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。