(この物語のあらすじ)
フリーライターの莉子は、店主のハルコさんがおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。
そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第6週は「ふるさとが呼んでいる」。
第39話:広い世界を見るのだ
(第6週:ふるさとが呼んでいる)
「笹野商店を継ぐ気はないのかしら」
わたしがたずねると、笹野さんはさみしそうに首を振ってうつむき、胸ポケットのタバコに手を伸ばした。
はたと気付いて決まりが悪そうに笑って手をテーブルの上に戻し、「ハルコさん、すみませんがコーヒーをもらえますか」と言った。
笹野さんによると、一人息子の明さんは24歳で独身。小さいころから何かにつけて「商店の息子」と学校や近所で言われるのを嫌がって、引きこもりがちだったという。
「広い世界を見たい」と18歳で上京して大学に入り、卒業後はITベンチャー企業で昼も夜もなく働いているという。
「夢野なんか田舎じゃと言い張って、見向きもせん。最近じゃ盆暮れも帰ってこんし」
「その気持ち、分かるような気がします」
コーヒーカップをのぞきこみながら、わたしは言った。
「わたしも昔から夢野市みたいな田舎にいたら、チャンスもないし、つまらない人生になると思ってたんです。
東京へ行けば一流の人に出会ったり、有名なお店に通ったり、自分が魅力的になれるような気がして。
まあわたしの場合は、就職できずに地元に戻ってきたクチですけど。息子さんは、大都会で仕事を見つけて、自活して踏ん張ってて立派ですよ」
笹野さんは黙ってコーヒーをすすった。ハルコさんは後から入ってきたお客さんのために、アジを焼いている。
「息子さん、ITの会社で働いてるっておっしゃいましたよね」
「ああ、SEとかなんとか。何度聞いてもさっぱり分からんのじゃけど」
笹野さんはズボンのポケットから財布を取り出した。診察券やら免許証のカードの束から、角が少し折れ曲がった名刺を取り出した。
「これ、息子の。連絡先があるでしょう」
子どもの名刺を大切に持ち歩く笹野さんの親心が透けて見える。
「わたしフリーライターになって間もないんですけど、ホームページを作りたいと思ってたんです。良かったら紹介してもらえませんか?」
(明日の朝につづく)
今日のおすすめ記事「美味しさ倍増!コーヒーにチョイ足し7つのアイデア」
(ストーリーに関連するおすすめレシピや記事をご紹介します♪)
笹野さんはシンプルなブラックコーヒーが好きそうですが、息子さんは、ラテやマキアートなど、東京にあふれるコーヒーショップでアレンジコーヒーを飲んでいるかも?しれませんね。
笹野さんにも試してみてほしい、おうちでできる、コーヒーをもっとおいしくする「チョイ足し」アイデア7選をチェック!
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。