[あしたの朝ごはん]第32話:おいしい野菜スープ

 

(この物語のあらすじ)

フリーライターの莉子は、店主のハルコさんおいしい朝ごはんを作る「カフェ あした」の常連客。東京から遠く離れた架空の小さな街・夢野市で、愉快な人びとや魅力的な食材が出会って生まれる数々の出来事。

そんな日常の中で、主人公の莉子が夢をかなえる鍵を見つけていきます。第5週は「思い出す恋」。

第32話:おいしい野菜スープ

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(第5週:思い出す恋)

「おはようございます」

ハルコさんの視線の先には、一徹くんがいた。

「ほんまにええ店ですね。やっと来れましたわ」

履き古したジーンズに、黄色の半そでのTシャツ姿の一徹くんは店をぐるりと見回す。

豆腐屋の店主とは思えないカジュアルさ。店に入ってくるだけで雰囲気が明るくなる。

「莉子さんに会えた。良かった」

意識してどぎまぎしてしまう。林太郎とは別の人なのに、どうしても重ねてしまう。ハルコさんは一徹くんにも朝ごはんを出した。

「ぼく、莉子さんの記事、読んでます」

鞄から夢野市の広報誌を取り出して、握り締めている。

「で、お願いなんですけど、うちの店のこと、書いてくれませんか」

自ら売り込んでくる人は、コラムを引き受けてから初めてのことだ。「孫ターンって言葉、知ってはりますか?」

「いえ、初めてききました」

「自営業で後継者のいない高齢者が、孫を呼び寄せて家業を継がせるって意味らしいんですけどね。田舎に移住したい若者が増えてるとかで、国のえらい人がぼくとこを視察に来てん。

質問にこたえながら、なんかちゃうって思ってて。流行りの言葉でくくられたくないねン。

莉子さん、夢野市のこと、どれくらいご存知ですか」

一徹くんはまっすぐな目で聞いてくる。

「人口はたしか1万人ちょっとで、海と山が近い」

「うん」

「若者が減って高齢化と過疎化が深刻」

一徹くんは黙ってうなずきながら聞いている。急に言われるとなかなか言葉が出ない。「えーっと、それから……、いなか?」

わたしの言葉に、一徹くんは吹き出した。

「せやろ。地元にいてると、それくらいの印象しかないねンな」

もうほとんどタメ口になっている。愉快そうに顔を崩して笑うから、なれなれしさも自然で違和感がない。スープの入った白い皿を指していう。

「たとえばこのスープ、ものすごくおいしいと思うンやけど」

わたしもコクコクとうなずく。

大きめに切ったニンジン、セロリ、たまねぎ、サツマイモを煮込んだ透明のスープ。野菜の甘みが混ざり合って、シンプルなのに極上のごちそうだ。

「ハルコさんの腕ももちろんあるけど」と、レジで客を見送るハルコさんに首を向けた後、

「水がちゃうねン、夢野は」

そういって、器を持ち上げてぐいとスープを飲んだ。

(明日の朝につづく)

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莉子が「シンプルなのに極上のごちそう」と表現した、ハルコさんの野菜スープ。じゃがいもではなく「サツマイモ」というのがちょっと変化球で、ハルコの独特のセンスが感じられますよね。

朝飲むとハッピーになれそうな、野菜の味がいっぱいのスープ。おいしい野菜が手に入ったときに、作ってみませんか?人気のポタージュとスープをまとめてご紹介します。(できれば、お水にもこだわってみたいですね!)

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(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)

★この物語の登場人物
波多野莉子(はたの りこ)・・・一人暮らしのフリーライター。30歳。夢野市で生まれ育つ。
ハルコ・・・朝ごはんだけを出す「カフェ あした」の店主。34歳。莉子に慕われている。

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朝の小説「あしたの朝ごはん」

毎朝更新。朝ごはんがおいしいカフェを舞台に、主人公が夢をかなえていく日常をつづるストーリー。
Written by

松藤 波

松藤波(まつふじ・なみ)
小説好きが高じて、家事のかたわら創作をする30代の主婦。好きな作家は田辺聖子、角田光代。家族がまだ起きてこない朝、ゆっくりお茶を飲みながら執筆するのが幸せなひととき。趣味は読書と、おいしいランチの店を探すこと。

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