(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。
Week 3は、紗季の元恋人である桜井真治の視点でストーリーが展開します!)
Vol.15 Week 3 「ニューヨークの真実」 (1)彼女に惹かれた理由
「来週から日本にしばらく戻って来れるか?」
テレカンでの東京本社のマーケ部長の言葉に、ついにその時がやってきたと自覚した。目を背けたくても、向き合わざるを得ないその日がやってきたと。
今年ニューヨークで35歳の誕生日を迎えた。
2年前から、愛だの恋だのというものには、臆病になっている。
否、もともと愛だの恋だのには興味がなかったが、勝手のいいガールフレンドを探すのには苦労しなかった。
その生活は2年前から一変して、もっぱらひとり遊び、株やFXのトレーディングに手を出してみたり、絶対日本では挑戦することのないパントマイムやサーカスを習ったりした。
男の方が女々しいとは本当だ。
東京で迎える3年ぶりのクリスマスは、何事もなく過ぎ去った。
ふと今年のロックフェラーのクリスマスツリーはどういう装飾だったか気になる。遠く東の摩天楼の空気が少し懐かしい。ハイスクールの学生がハンドベルを鳴らしている光景。瞳を閉じて、僕が真っ先に探したのは———
紗季だ。ため息が出る。
「しおりちゃん、ありがとう」
朝のヨガの時間のあと、どうやら僕のことを気に入ったらしい10も下の女の子。粋がよくて、元気をくれる子だ。僕は、パントマイムのクラスで習った、ピエロの動きで、おじきをしてみせた。
ニューヨークという街でも、2年以上暮らせば、慣れる。刺激を感じることは少なくなっても、どこか夢見心地でいられる街が僕は好きだ。
ごく普通の舗道で大道芸人がふいに話しかけて来たり、街角で陽気なアコーディオンが聴こえてきたりして、寂しさをはらしてくれるのだ。
「真治さん、わたしは本気なんだけどなぁ」
かわいい子なんだけど。
ガールフレンドをとっかえひっかえやってた時代を知っている知人には、欲望渦巻く街で、自分の欲望は誰かに抜き取られているのだと軽く流している。
「しおりー?会社いくよー?」
紗季がスタジオから出てきた。僕の複雑さも、しおりの切なさも何も知らない、無邪気な表情で。
ニューヨークにいた頃、こんな表情を見たことがなかった。その気付きに、ただ無力になる自分が悲しい。
「あれ、なんか取り込み中だったか・・・な」
「何言ってるんですか、紗季さん。荷物とってくるのでちょっとお待ちください」
「いい、いい、わたし先行くね、お二人とも会社で」
紗季は、僕と目を合わせないように、僕たちの前を通り過ぎた。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「三角のポーズ」
Week 3のおすすめ「三角のポーズ」も、先週の「木のポーズ」同様、ヨガの代表的なポーズ。
腕から体側、脚までをバランスよく伸ばし、大地を踏みしめる力強いポーズ。滞りがちな股関節周辺の関節の動きや筋肉を動かし、リンパの流れや血流も良くします。
股関節の位置が上手くはまると、きつさがなくなり、関節への心地よい刺激で、身体の中がぽかぽかしてきます。
「三角のポーズ」の流れ
- 足裏全体を床に根をはるようにイメージし、ひざ頭、うちももを引き上げ、骨盤まで足の裏からの意識を繋げていきます。上体は、緊張させず、リラックス状態を意識します。
- (1)の状態から、左足を大きく一歩後方へ進め、マットに対し、45度左側に足先を開きます。左足うら全体で、床を押します。この時、親指からうちももを特に意識をおき、うちももを内側に少しひねるようにし、左の骨盤を前に押し出します。
- (2)の状態から息を吐きながら、左の骨盤を今度は真横に開いていきます。左足先は、マットに対し90度に開き、両手も開きます。
- 骨盤を左側にずらし、右手を前方にひっぱられるように移動させます。左の骨盤と右手先の感覚が繋がるように意識します。反対側も同様に行います。
- 右手を右足に落とし、左手を天井に上げ、左胸から天井へひっぱられるようにカラダを広げます。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。