今日のカフェボンボンは、庄野潤三の『庭のつるばら』。
丘の上の家にくらす夫婦の日々を描いた、心洗われる作品。家族や友人との豊かな交流が、愛情あふれる筆致でつづられています。
『庭のつるばら』
著者:庄野潤三
出版社:新潮社
子どもたちは巣立ち、夫婦二人きりの生活のなか、季節は何度も移ろう。夫は妻のピアノのおけいこを聴き、夜になるとハーモニカを吹く。
ピアノの練習の途中でつっかえた妻が笑い出す。「笑ってちゃいけないね。いま弾いていたのは何?」「『小さな嘆き』。ブルグミュラーです。そのあとは、『おしゃべり』」
夫婦の何気ない会話から楽しげなようすが伝わってきます。丘の上の家からピアノの音と笑い声が聞こえてきそうですね。
子どもや孫たち全員そろっての、伊良湖岬への家族旅行のシーンはしみじみと味わい深い。当時76才の庄野さんが、急に海に入りたくなって冷たい水の中を泳ぐ。長女と次男に見守られて平泳ぎで泳いでみる。子どもたちはとても喜んで……。
待ち遠しい夏休みの家族旅行、海水浴、必ずやってくる旅の終わりの寂しさ。日々の暮らしの中にある、劇的ではない日常が愛情をこめて描かれています。
私は旅先にこの本をよく持っていきます。庄野さんの作品は、旅することの喜びを実感させてくれるから。そして、短い旅のあと、ふだんの生活に戻ることの幸せも感じさせてくれます。
Love, まっこリ〜ナ