寒い日もこれで安心!熱を逃がさない洋服の着方とは!?

 

Winter fashion clothing with scarf gloves and blanket

先生/田村照子(文化学園大学名誉教授同大学院特任教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

冬になると「冷たい手足」…のワケ

寒さもだんだんと厳しくなり、マフラーや手袋、腹巻にモコモコ靴下など防寒対策にも余念がないこの頃。長時間外にいると、いつの間にか手足の感覚がなくなるなど、寒い季節の冷えは、年々キツく感じられるような気が…。「冷え」をゆるやかにするために衣服でできることは何でしょう。文化学園大学教授の田村照子先生にお伺いしました。

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「人のからだは、体内で熱をつくり出す”産熱”と体表から熱を外に出す”放熱”のバランスを保って体温を調節しながら生きています。

かつて人体には、寒い冬には熱を多く生み出してからだを冷やさないなど、季節に対応して産熱量を変化させる働きがありましたが、それは残念ながら戦前の話。冷暖房機器が発達し、オフィスや家、電車で常に快適な温度が保たれている現代人は、冬だろうが夏だろうが産熱量は一定となってしまい、季節に対応する力が低下してしまいました。寒さに弱くなってしまったとも言えますね。

結果、産熱と放熱のバランスが崩れて、手足などが冷える『冬の冷え』体質の原因に。でも、どうして末端ばかりが冷えてしまうのでしょう。実はこれには理由があるのです。

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寒さを感じたときに、人は熱を出すまいと皮膚の温度を下げますが、どこから下げていくのかというと、手足の先からなのです。なぜなら、手足の先などには “AVA(動静脈吻合)”という特殊な血管があるためです。

通常、心臓から送り出された血液は、動脈を通り毛細血管に枝分かれして体内の組織に栄養と酸素を運ぶとともに炭酸ガスを回収した後、今度は静脈を通って心臓に戻るという循環をしています。

ところで、毛細血管はその名の通り、ものすごく細い血管で、ひとつひとつの細さは赤血球が一個通る程度。そのため、毛細血管を通るときに血流は遅くなってしまうのです。

この遅さでは、血液の循環が間に合わないというときに、毛細血管を通さずショートカットするバイパスのような経路ができています。これがAVAです。AVAは毛細血管よりも太く、大量に速く流れるので、血液の循環がスムーズにいくわけです。

AVAが作動するのはどういうときかと言いますと、からだが熱くなって、『この熱を早く外に放出したい』というとき。AVAを通して手足を流れる温かい血液量を増やし、熱を速く外へ移動させるのです。

反対に寒いときは、『外に熱を出したくない』ので、AVAを閉じてしまいます。AVAを閉じると、手足を流れる温かい血液量が減少するため手足が冷たくなってしまうのです。AVAが発達しているのは、手足、鼻、耳、などで、これらの部位は寒いときに特に冷たくなりますよね。

冬の手足の冷えというのは、からだが体内の熱を逃がさないように行っている一種の防御反応なのです。

冬になり外との気温差が大きくなればなるほど、からだの熱はどんどん出て行ってしまうので、気温差が広がれば手足の冷えも増すわけです。AVAがある箇所は外の気温と同じくらいまで下がってしまうんですよ。しもやけや凍傷になりやすいわけですね。

手袋よりもマフラーが効果あり!

Winter fashion clothing with scarf gloves and blanket

寒いときに熱が出て行くのを抑えるのが”衣服”の大事な役割です。優先して温めるべきは、”生命維持にとって大切な臓器のある体幹部(胴体)”と、脳に血液を送る”首”。AVAの開閉の指示もこの部分が寒さを感じるか否かで出されるのです。寒い時、まずは体幹を温めることが基本中の基本。体幹部を温めるダウンベストなど、おすすめです。

そして脳はからだの中で、何よりも大切に守られている部分。ここが冷えてしまっては大変です。心臓から脳へと血液を運ぶのに重要な役割を担っている「首」も優先的に温めて。首には血管がたくさん通っていて、熱を出しているので、この部分を温めて熱を逃がさないようにすると、からだ全体が温まります。マフラーやタートルネックのセーターで温めてください」

美しく装うためだけでなく、熱を逃がさないために人は服を着る。からだにとって衣服は重要な役割があるんですね。寒いときなど、自然に首をすくめてしまいますが、あの動作も大切な部分を冷やさないようにする人間の自然な反応だと思うと納得です。

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田村照子
文化学園大学名誉教授同大学院特任教授、文化・衣環境学研究所長、医学博士(東京医科歯科大学)。お茶の水女子大学大学院家政学研究科修士課程修了。順天堂大学助手を経て、1968年より現職。衣服の機能性に関する分野を人々の生活に役立つ学問領域にしたいと、医学の知識を生かしながら「温熱」「形態と運動機能」「皮膚の生理」を中心に研究。日本を代表する被服衛生学研究の第一人者に。健康や環境と衣服がどのように関わっているか、これからの衣服についての提案なども注目を集め、メディア出演や講演など多岐にわたる活動をこなす。著書に『衣環境の科学』、共著に『夏を涼しく暮らす188のルール』(衣の科学シリーズ)など。新刊『衣服と気候』(気象ブックス)も好評発売中。

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