(この物語は…毎朝のヨガ習慣をはじめてから108日目を迎えた、ヨガが好きなOL 紗季に、久々に起こる、恋と仕事の変化。朝のヨガスタジオで巻き起こる男女のハートフルなラブストーリー。小説のストーリーに合わせ、毎週おすすめヨガポーズをご紹介します。
Week 4は、ふたたび主人公である紗季の視点でストーリーが展開します!)
Vol.25 Week 4 「朝ごはんでデートを」 (4)ありがとうの意味
真治は、あっさりとしたものだった。
一度だけ私を抱きしめて「ありがとう」と言った。
そして、2人は無言のまま、ラジオだけが陽気だった。
「ありがとう」はどちらなのか、何もはっきりさせないままだ。
もともと言葉が多くない真治が多くの言葉をくれた事実が、少し私の心に引っ搔き傷を与えていた。本当に変わろうとしてくれたのに、それに答えられないわたしに。
そうやっていつも、わたしが考えさせられる関係性になっている。いつも、いつも。いつだって、ずるいのは真治の方だ。
今年の冬休みは短い。明日には、東京に戻っていて、その次の日からは働いているのだ。今日だけはゆっくりお風呂に浸かって、頭をオフにしたい。
1年前なくなった祖母の部屋でLPのキャロル・キングを見つけた。
わたしは、とっさにほこりを払い、おそるおそる針をレコードに落とした。ぽつぽつと音と立てながら、憂いのあるボイスが、切なさを大きくする。ならば、それを十分に味わおうとブランケットをもってきて、自らの肩にかぶせた。
4曲目までをじっくり聴いて眠りに落ち、そして11曲目で、うとうとから醒めた。優斗さんからのメッセージに起こされたようだ。
「4日の朝のあと、ニューイヤーブレックファーストでもどう?」
ぜひ、とだけ送ってわたしはまた眠りについた。
夢の中で見ていたのは、マンハッタンのシェアハウス。部屋は個別だけど、わたしたちはいつもリビングルームにいた。若者たちが入り交じっていて、そこには音楽とダンスがあった。
わたしは、余裕もなくて、いつもそこで仕事をしていたけど、彼らが少し騒がしくしてくれていることではかどった。異国でがんばっているという多幸感の演出がそこにあったのだ。
母にお願いしてLPを東京の自宅までもってきた。
今年はプレーヤーを買おう。誰かとこの音楽を共有したいから。
4日の朝。ヨガ初めに真治は来なかった。
「真治さん、いないですね」
もの言いたげなしおりに、わたしは、はっきり言った。
「今日わたし、優斗さんと朝ご飯にいくことになってて。2人で」
「会社一緒にいけなくてゴメン、お昼新年ランチしよう」
しおりは、分かりました!と何もツッコミもしないし、顔色ひとつ変えず。
今日のスタジオメンバーは、アレックス、しおり、優斗さんとわたしの4人だった。
久々のヨガは、念入りに呼吸することから始めた。左の鼻から空気を取り込み、右の鼻から吐き出す。なんども繰り替えすと、内側が温まってくるのが分かる。
胸をひらくポーズ、骨盤をゆるめるポーズ、念入りに行った。
終わりにさしかかって、魚のポーズをとっているとき、いつもより、胸が開く感覚がにぶかった。
少し苦しい。つっかかる。
(つづく)
今週のおすすめヨガ「さかなのポーズ」
Week 4のおすすめは「さかなのポーズ」。
胸を開き、頭皮を刺激するポーズで、固くなりがちな背中を動かし、胸を開くことで呼吸がとても楽になるでしょう。冬の間は、頭皮も乾燥したり、うつむき癖でひっぱられたり、酷使しています。
明日に向かう活力をもらえるポーズです。
「さかなのポーズ」の流れ
- 足を腰幅に開き、全身の重みを床に素直に落とします。
- 手を組み、お尻の下におきます。同時に肩も背中の下にしまうイメージで、内側に入れます。
- 胸を天井からつられているイメージで、引っ張り上げます。最後に頭頂部を床につけ静止。
(この小説は毎朝4時更新です。続きはまた明日!)
★この物語の登場人物
新城紗季(しんじょうさき/30歳)プロダクトブランド販売会社のマーケティング部につとめる。この物語の主人公。
アレクサンドル・ハミルトン(アレックス)(38歳)フランス系アメリカ人。ヨガスタジオを経営。
相場優斗(あいばゆうと/38歳)外資系投資銀行の行員。
桜井真治(さくらいしんじ/35歳)紗季と同じ会社でニューヨーク店勤務。紗季の元恋人。
東谷しおり(ひがしやしおり/25歳)ヨガ仲間のひとりで、紗季の会社の事務系OL。