おはようございます。料理家のまきあやこです。
この連載『本と映画と朝ごはん。』では、朝におすすめの本や映画、そして、一緒に楽しみたい簡単朝ごはんレシピをお届けします。
この世の全ての小説を読んでみたいと思うけれども、その全てを読むことはきっと一生かけても出来ないので…。「どの物語を読もうかな?」と決めるのに、私は本屋さんで最初の数ページをぱらぱらと読んでみることにしています。
人と人の出会い、みたいに、小説との出会いも、その出会い頭に決まるんじゃないかな、と思っているのです。
今朝ご紹介する、昨年東出昌大さんの主演の映画化でも話題になった、柴崎友香の小説『寝ても覚めても』は、正にそんな小説。
書き出しのほんの数ページだけで、周囲の雑音が消えて、その世界にぐっと引き込まれます。
当然かもしれませんが、同じ風景を見ていても、ひとそれぞれに見えている景色って実は違っていて、「その風景がどんな風に見えているのか」とか「その風景をどんな風に感じているか」が、その人をその人たらしめているんだなぁ、ということが、淡々と続く情景と心情の描写のなかにじわり、と感じるような書き出しなのです。
物語の始まりは1999年の大阪で、社会人になったばかりの朝ちゃんが、ちょっと不思議な雰囲気の麦(ばく)くんに出会ったことからはじまる、恋と日常。
ある日突然消えてしまった麦くん。その3年後、東京でついに再会できたと思ったその人は、顔が麦くんとそっくりな別人でした。そしてまた、朝ちゃんは彼に恋をします…。
2008年までの約10年間の朝ちゃんの日々と恋模様が描かれているこの作品、今回、この本を選んだのは、「雨」のシーンが印象的なお話だから。梅雨の季節、雨の降る朝に、読むのにぴったりなお話だなぁ、と思います。
冷蔵庫にある野菜とちくわで作る「焼きそばパン」
そんな『寝ても覚めても』から妄想した朝ごはんレシピは、「ちくわときゅうりのソース焼きそば」。
主人公の朝ちゃんは、片付けが苦手で、何もかもにカビを生やしてしまうような、ちょっとだらしの無いところがある女の人。
食事シーンの多い小説ですが、朝ちゃんがお料理を作るシーンはほぼ一度もなくって、朝ちゃんはきっとあんまり、お料理が得意じゃないんだろうなぁ、と思います。
彼のいる休日に朝に、のそのそと起き出した朝ちゃんは、冷蔵庫に残っていたこんな感じのもので朝ごはんを作ったんじゃないかなぁ。
そして、焼きそばが1パックしか残っていなくって、2人で食べるのにはボリュームが少ないので、きっとパンに挟んだに違いない…と思って、焼きそばパンにしました(笑)
物語の中でも「パン」というのはちょっとしたキーワードな気がします。
<材料>
- 焼きそば 1パック(付属の粉末ソースも使います)
- サラダ油 大さじ1/2
- きゅうり 1/2本(5mm程度の輪切り)
- プチトマト 4〜5個(半分にカット)
- ちくわ 1本(5mm程度の輪切り)
- 食パン 1枚
- マヨネーズ お好みで
<作り方>
1) フライパンに油をひいて、中火〜強火にしたら焼きそばときゅうりを入れて焼き付けるように炒める。
2) 麺がほぐれてきたら、ちくわ、プチトマトを入れて炒め、付属の粉末ソースで味付けをする。
3) このまま食べてもトーストに挟んでマヨネーズをかけて、焼きそばパンにしても。
突拍子もない組み合わせに思われるかもしれませんが、ちゃんとおいしく作れますので、ご心配なく。
サラダとして生で食べる印象が強いきゅうりですが、火を入れてもとても美味しい野菜です!ソース焼きそばとの相性もぴったりですので、どうぞお試しを。
私は、柴崎さんの「若者たち」とか「青春だった頃」の空気感の描き方がとても素敵だなぁ、と思っていて。
目的も責任もなくって、けれど、なんとなく守られていて、宙ぶらりんで、その「宙ぶらりんの感じ」、というのが、柴崎さんが描く若者たちの空気感だなぁ、と思います。
このお話を読んでいると、長く働いたり、出会って別れることにちょっと慣れてしまったり、例えば結婚して家族が出来たり、そんなことをしているうちに、いつの間にか手の届かないところまで来ているような、「あの頃」にしかない独特の空気感を、匂いとか、温度とか、夜や朝や空の見え方みたいなもので、目の前にあるように感じさせてくれるのです。
2020年代を目前に、1990年代のカルチャーが見直されたりしていますが、90年代の特別じゃない若者たちの温度感、みたいなものが詰まった作品でもあるなぁ、と思います。
ちなみに、映画も話題の本作、映画をご覧になるご予定の方は、映画を先に観てから、小説を読むのが個人的なおすすめ!tofubeatsさんの主題歌もとっても素敵ですよ。
☆この連載は<毎月1回>更新します。次回、6月の記事もどうぞお楽しみに…!