この美しい物語にぴったりの言葉は、童話でもファンタジーでもなくメルヘン。
今日のカフェボンボンは、児童文学作家の安房直子(あわなおこ)の短篇傑作集です。
『春の窓』
著者:安房直子
出版社:講談社
思春期の頃、憧れや不安でいっぱいな心を温かくしてくれたのは、やっぱりこんなメルヘンでした。
たとえば「あるジャム屋の話」。人づきあいの苦手な若者が、森の中の小屋でジャム作りを始めるのですが、ジャムは一向に売れません。絶望しかけた若者のもとを訪れたのは意外にも……。黙々とジャムを作る若者のさびしさをやさしく包み込む、詩のような物語がじんと心に響きます。
ひとりぼっちのクマの物話「北風のわすれたハンカチ」は、本当にせつない。「さびしくて、胸の中がぞくぞくするよ」体はおとなだけど、心はまだ少し子どものクマのつぶやきです。
本書の「朝時間」は、カニから届いた白い巻貝。耳に当てると、朝露のこぼれるような、ギターの音色が聞こえてきます。
本のお供には、「あるジャム屋の話」にちなんで、ロシア紅茶を。いちごジャムをティーカップにひとさじ入れて……。
人の心にすっと入り込み、希望の光をともしてくれる12のメルヘン。人生に訪れる幸福の瞬間を照らす光は、ランプのようにポッと明るく輝いて、いつまでも温かい。
以前ご紹介した『ひぐれのラッパ』もおすすめです。
Love, まっこリ〜ナ