今日のカフェボンボンは、心が温かいもので満たされる小説を。
おすすめは、宮下奈都の『遠くの声に耳を澄ませて』。
注目の人気作家が描く、旅をテーマにした短編集です。
『遠くの声に耳を澄ませて』
著者:宮下奈都
出版社:新潮社
実際には訪れたことのない異国の地が、忘れえぬ鮮やかな印象を残すこともある。
主人公たちは、祖父から聞いた話や、息子から時折届く絵はがきで、
あるいは、出張先で耳にした懐かしい方言の響きのなかで過去を旅する。
くさりのようにつながる12の短編は、読み進むうち広がりと厚みを増し、
静かな日常が濃密な空気に包まれていく。
とくに心に残るのは、冒頭の作品「アンデスの声」。語り手は地方でOLとして働く“私”。
遠い国の赤い花の光景が、病いに倒れた祖父と主人公とをつないでいきます。
読み終えて涙が止まりませんでした。
旅は滞っているものを流し去り、前へ進むための小休止なのかもしれません。
そう、たぶん、メロディを奏でる前の休符みたいなもの。
ああ、希望を持って生きていきたいな。この本にはそう思わせる力があります。
本書の「朝時間」は、旅先で迎えるすがすがしい朝。
本のお供には、作品のひとつにちなんで、ミルクティーをいかがですか。
宮下奈都の作品は、以前ご紹介した恋愛小説アンソロジー『コイノカオリ』にも収められています。こちらも心にしみる作品です。
Love, まっこリ〜ナ