■睡眠・覚醒リズムは夜の光にも影響される
ついつい夜更かししてしまう毎日。今日こそは早く寝て、明日の朝こそ早く起きよう。そう思って早い時間にベッドに入ってはみたものの、なかなか眠れない。そんな経験はありませんか? それは、睡眠・覚醒リズムが24時間よりも長くなりやすく、夜の光に影響されるとより長くなって寝る時間が後ろへずれてしまうという性質があるためです。
Vol.1では、朝の太陽の光が目覚めを促し、24時間より長くなりがちな生体時計を24時間にリセットしてくれると述べました。でも、実は、睡眠・覚醒リズムはあらゆる光に反応しやすい性質をもっており、夜になってから強い光を浴びてしまうと、そのリズムが24時間より長くなってしまうことがわかっています。そのため、夜更かし朝寝坊した日の夜に早く寝ようと思っても、なかなか眠れないというわけです。
理想的な状態では、睡眠・覚醒リズムや体温のリズム(このほか、ホルモンリズムなどもある)は、約24時間のリズムで上のグラフで示したように変化します。しかし、外光が入らない恒常的(環境が一定)な部屋で数日間過ごさせると、体温リズムはほとんど変化しないのに、睡眠・覚醒リズムは1日約1時間ずつ(個人差あり)後ろへずれてしまうことが実験により明らかになっています。つまり、睡眠・覚醒リズムは体温リズムより乱れやすく、光刺激がないと24時間より長くなって地球の動きとは同調しなくなってしまう性質があるのです。
朝は明るく、夜は暗く!
この事実からさまざまな実験が行なわれ、その結果、睡眠・覚醒リズムは太陽の昇沈という光刺激によって地球のリズムに同調するということがわかってきたわけですが、別の実験では、睡眠・覚醒リズムは太陽の光だけでなく、照明などの光にも反応してしまうこと。さらに、光を浴びる時間によってはリズムが一層乱れてしまうことも明らかに。
上のグラフの体温リズムに着目してみてください。体温は朝起きる少し前から上がり始め、夕方頃にピークを迎えて、それ以降は少しずつ下がり始め、夜中に最低体温になるように変化しています。実は、睡眠・覚醒リズムは最低体温を経過した後に強い光を浴びると、約1時間短くなって、ほぼ24時間に調整され、最高体温を過ぎてから最低体温を迎える間に強い光を浴びてしまうと、睡眠・覚醒リズムは1時間後ろへずれて24時間より長くなってしまうということが、Minorsら(1991年)の実験によって判明しています。
つまり、朝起きて光を浴びても、夜明るい環境にいると、睡眠・覚醒リズムが後ろにずれて夜更かししがちになってしまうわけです。そうならないためいは、朝起きたら光を浴びるだけでなく、夜は暗い環境で過ごすことが大切。
電気が発明されるまで、人類は太陽の光以外、夜はわずかな月明かりと火の光だけで過ごしてきました。そのため、とくに意識していなくても、朝は明るく夜は暗くという環境になり、地球の動きに同調することができました。しかし、現代では、あらゆるところに光が溢れています。この中でリズムを崩さないようにするには、意識して“朝は明るく、夜は暗く”することが不可欠なのです。
睡眠・覚醒リズムを1日24時間の地球リズムに同調させるには、早寝から始めるより、まずは早起きして朝の光を浴び、1時間生体時計を短くして24時間にリセットすることが先決。そして、夕方以降はなるべく照明を落として、せっかく調整した睡眠・覚醒リズムが長くなってしまわないように気をつけることが大切です。
より正確に調整するには、自分で体温を測って最高体温を過ぎる頃に照明を暗くすればいいわけですが、今まで述べた体温とは、深部体温(直腸で測る体温)のことで、自分で調べることはなかなかできません。ですから、昔の人と同じように、太陽の動きを第一の目安に考え、太陽が沈んだ後は強い光を避けることが理想です。とは言っても、都会で働いている人にとっては到底無理なこと。でも、良い眠りと目覚めのためには、せめて夜の10時には照明を暗めに調整したいものです。ちなみに、夜は、蛍光灯のような白い光より、電球のような黄色い照明に替え、光源が直接目に入らないものにするだけでも刺激はやわらぎます。
また、テレビや、携帯・PC画面程度の明るさでも睡眠・覚醒リズムに影響してしまうといわれているので、眠りを改善したい人、自分は光に左右されやすいと思う人は、夜遅くまで使用しないよう気をつけましょう。