年末年始の少し長いお休み。気づけばなんとなくスマホを眺めているうちに、一日が終わってしまった…そんな経験はありませんか?
そんんな日は、いつもよりゆっくりページをめくりながら、ひとつの物語の世界にどっぷり浸かる時間を楽しみたいもの。今回は「冬休みに一気読みしたい長編ストーリー」をテーマに、編集部が5冊をセレクトしました。
家族小説からファンタジー、青春物語、海外ミステリーまで。読み終えたあともしばらく余韻が残る、とっておきの物語たちをご紹介します。
【1】ささくれた心に寄り添う、“居場所”の物語
『かがみの孤城』(著者:辻村 深月/出版社:ポプラ社)
いじめをきっかけに学校へ行けなくなった中学生・こころ。部屋にこもり続けるある日、突然「鏡」が光り、気がつくと不思議な城の中にいました。
そこに集められたのは、事情の違う7人の中学生たち。狼のお面をつけた「オオカミさま」から告げられたのは、「城のどこかにある“願いが叶う鍵”を期限までに見つけること」でした
ファンタジーの舞台設定でありながら、描かれているのは「生きづらさ」や「居場所のなさ」と向き合う等身大の10代の姿。彼らの会話や沈黙、ふとした仕草に胸が詰まり、ページをめくる手が止まらなくなります。
分厚い長編ですが、人物同士の秘密が少しずつつながっていく中盤以降は、まさに一気読み必至。読み終えたとき、「あの頃の自分」や、今そばにいる誰かを少しやさしい目で見られるようになる一冊です。
【2】「家族って何だろう?」をやさしく問いかける感動長編
『そして、バトンは渡された』(著者:瀬尾 まいこ/出版社:文藝春秋)
主人公の森宮優子は、高校生にして「5人の父と母」がいる女の子。親の再婚や離婚で苗字も環境も何度も変わりながら、それでも彼女はいつも「大切にされてきた」という実感とともに生きてきました。
血のつながりにとらわれない、さまざまな家族のかたちが描かれる本作。食卓を囲むシーンや、ちょっと不器用な大人たちの言動には、クスッと笑ってしまう温かさがあります。一方で、誰かの善意が別の誰かを追い詰めてしまう瞬間もあり、「優しさ」について改めて考えさせられます。
冬休みにじっくり読みたいのは、まさにこんな物語。読み終えたあとは、そばにいる家族やパートナー、友人に「ありがとう」と伝えたくなるような、心に灯りをともす長編です。
【3】時を超える手紙がつなぐ、あたたかな奇蹟
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』(著者:東野 圭吾/出版社:KADOKAWA〈角川文庫〉)
空き巣に入った青年3人が、逃げ込んだ先はかつて「悩み相談」を受け付けていた雑貨店の廃屋。真夜中、シャッターの郵便口から突然1通の手紙が投げ込まれます。
差出人は、夢と現実の間で揺れる若い女性。悪ふざけ半分で返事を書いた3人でしたが、その手紙をきっかけに、「過去」と「今」をつなぐ不思議な手紙のやり取りに巻き込まれていきます。
悩みを抱えた人々のエピソードが連作短編のようにつながり、最後には思いもよらない形で物語が収束していく構成は見事の一言。伏線が「こうつながるのか!」と分かった瞬間、胸の奥が熱くなるはず。
1ページごとの読みやすさと、「続きが気になって眠れない…」という物語の力を兼ね備えた一冊。年末の静かな夜に、温かい飲み物を片手に一気読みしたい物語です。
【4】さびれた温泉街で揺れる、高校生たちの“今”
『エレジーは流れない』(著者:三浦 しをん/出版社:双葉社〈双葉文庫〉)
海と山に囲まれた小さな温泉街・餅湯町。かつて観光客でにぎわっていたこの町も、今ではどこか眠たげな雰囲気が漂っています。
そこで暮らす高校2年生の怜は、「母親が2人いる」複雑な家庭環境や、進路のこと、自由奔放な友人たちとの関係に悩みながら、なんとか毎日をやり過ごしていました。そんな中、地元の博物館から縄文式土器が盗まれたというニュースが流れ…。

大事件が起きるわけではないけれど、誰にとってもかけがえのない「青春の一時期」を、生き生きとした会話と少しビターな笑いで描き出す物語。友人たちとの何気ないやりとりや、家族へのもどかしい気持ちに、「こんな感情、あったな」と胸がチクっとする場面も。
厚みのある長編ながら、テンポよく読み進められるので、まとまった時間が取れる冬休みにぴったり。年齢を問わず、「あの頃の自分」と今の自分をつなげてくれるような一冊です。
【5】美しい風景に潜む“わからなさ”が、心を捕まえる
『ピクニック・アット・ハンギングロック』(著者:ジョーン・リンジー、訳:井上 里/出版社:東京創元社〈創元推理文庫〉)
舞台は1900年のオーストラリア。寄宿学校・アップルヤード学院の少女たちは、バレンタインデーの行事として、近くの奇岩・ハンギングロックへピクニックに出かけます。
青い空の下、楽しい時間を過ごしていたはずが、突然数人の生徒と女性教師が姿を消してしまう――それが、物語の始まりです
事件の「真相」が明かされることはほとんどなく、読者は美しくもどこか不穏な風景描写と、残された人々の動揺を追いかけ続けることになります。「何が起きたのか分からない」ままページを閉じる、その“宙ぶらりん”な読後感こそが、本作の魅力。
はっきりした答えより、余白や想像の余地を楽しみたい方におすすめの一冊。外は冷たい冬の空気でも、部屋の中で毛布にくるまりながら読むと、物語のひんやりとした余韻が、長く心に残ります。

秋の夜長に読みたい!「心をゆるめるおすすめの本」5選
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長編小説を一冊読み終えると、心のどこかに「旅をしてきた」ような満足感が残ります。
この冬休みは、スマホを少しだけ手放して、物語の世界へ出かけてみませんか? 気になる一冊とともに、ゆっくりとページをめくる時間が、がんばった1年のご褒美になりますように♪





