先生/森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/楽谷玲子
“インナーマッスル”…っていったい何?!
スッと伸びた背筋、シャンとした歩き姿…姿勢のいい人が放つ空気は、年齢や性別を超えてきらきらとハッピーオーラが感じられます。いったい姿勢のいい人と悪い人、からだの使い方にどんな違いがあるのでしょうか?また、姿勢をよくするためには、どこの筋肉が大事なのでしょうか。京都大学の森谷敏夫教授にお伺いしました。
「姿勢を美しくするため、またよい姿勢をキープするためには、からだの”軸”を整えることが大事です。スポーツで想像するとわかりやすいのですが、たとえば、サッカーでも、からだを斜めに倒してボールを蹴るにも、外側に力がかかっていくのに軸がぶれてしまってはボールを蹴ることができません。
歩き姿や立ち姿も同じです。からだの中心である軸がブレてしまうと、姿勢が崩れてしまいます。つまり、軸をいかに固定できるかが、よい姿勢づくりにおいては非常に重要なのです。その軸を支える筋肉のことをインナーマッスルと言います。
“インナーマッスル”…よく聞く言葉ですよね。でも、果たしてインナーマッスルとは、どんな筋肉を指すのか、いまひとつピンときていない人も多いかと思います。インナーマッスルとは、”からだの奥深く(深層部)にある筋肉の総称”。からだの内側にある筋肉のことです。
からだの奥にあるインナーマッスルは、関節の位置を調整したり、腱と骨のつながりを支える重要な筋肉です。多くは骨の近くにあって、姿勢やなめらかなからだの動きなどをサポートします。
このインナーマッスルのやっかいなところは、深層部にあるため、ふくらはぎや腕の筋肉などとは違って、ひと目ではわからないという点。自分のインナーマッスルが十分にあるのか、はたまたまったく足りていないのか、その量は外から見てもわかりません。その代わり、姿勢や動きなどに如実に現れるのです。インナーマッスルは、別名”姿勢保持筋肉”とも言われることもあるのですよ。
インナーマッスルは、からだの機能にも影響大!
特に姿勢に影響を与えるインナーマッスルは、上半身と下半身をつなぐ骨盤、背骨周辺にあります。図をみてください。骨以外の色のついている部分がインナーマッスルです。骨盤低筋郡を土台にして、ヨットのように見えませんか?
インナーマッスルは、例えるならヨットの帆柱を支える筋肉なのです。マストがピンと張っている(いい姿勢を保つ)ためには、インナーマッスルが必要です。この筋肉が弱ってきたり、右の図のようにどちらかが緩んでくると、脊柱をまっすぐに支えられなくなり、姿勢に悪影響を与えてしまうのです。
インナーマッスルが姿勢に大きな影響を与える理由はもうひとつ。人間のからだの軸のなかには、多くの臓器があります。もしもこの部分に骨しかなかったら、内臓は飛び出てきてしまいます。からだの軸にある内臓は、インナーマッスルによって支えられているのです。
ですから、インナーマッスルが弱ってくると、内臓が下がり、ぽっこりお腹の原因となったり、内臓の位置がずれることで、本来ない位置に空洞ができてしまいます。それによって、からだの機能も低下し、便秘などを引き起こすことも。
インナーマッスルは、内臓を正しい位置におさめるコルセットのようなものだと言えるでしょう。インナーマッスルが強いと、内臓は正しい位置に納まり、機能が正常に働くばかりか、姿勢もよくなり、ウエストのくびれも生まれるなど、見た目の美しさにも影響します。」
いい姿勢を支える筋肉、インナーマッスル。外側からは分からないのが、もどかしくも感じますが、その状態は”姿勢”に現れているのですね…。内臓の位置にまで影響しているだなんて、思わず背筋が伸びます。
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森谷敏夫(京都大学大学院 人間・環境研究科教授)
南カリフォルニア大学大学院博士課程修了(スポーツ医学、PhD)。テキサス農工大学大学院助教授、カロリンスカ医学研究所客員研究員(スウェーデン政府給費留学)などを経て、2000年より現職。専門は、応用生理学とスポーツ医学。60歳を超える今も、体脂肪率は驚異の9.8%。明朗快活な人柄も人気でおもしろく、ためになる講義は大盛況。著書に『メタボにならない脳のつくり方』(扶桑社新書)、『ダイエットを科学する』(ディジタルアーカイブズ)など多数。
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